脂質の管理目標について

内科 医師 

悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が増えすぎると、血管の壁にコレステロールがたまって動脈硬化の原因になります。 高い状態を放置していると動脈硬化がすすんで血管が狭くなり狭心症や心筋梗塞、そして脳梗塞といった重大な病気につながります。

心臓自体に血液を送るための血管(冠動脈(かんどうみゃく))が動脈硬化で狭くなり、動いた時などに心臓(心筋)に送られる血液(酸素)が足りなくなり、一時的に胸の痛みや圧迫感を感じるのが狭心症です。血管がつまってしまい、血液を送ることができなくなると心筋梗塞と呼びます。血管がつまると血液が送ることができないため、強い胸の痛みが30分以上続きます。脳の血管が動脈硬化でつまると脳梗塞といい、つまった場所によって片側の手足が動かない、しびれ、しゃべりにくい(ろれつが回らない)などの症状が出ます。

日本動脈硬化学会から5年ごとに『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』という動脈硬化予防のための指針が発表されています。2022年に発表されたものの中から脂質、今回は特にLDLコレステロールの管理目標値について、簡単にご紹介させていただきます。脂質検査には主にLDLコレステロール、Non-HDLコレステロール(総コレステロールからHDLコレステロールを引いて求めます)、中性脂肪、HDLコレステロールがあります。LDLコレステロールが最初に達成する目標とされています。 加齢や喫煙は動脈硬化の原因となります。男性は女性に比べて動脈硬化を起こしやすいことが知られています。一方で女性では閉経後に動脈硬化の病気が増えてきます。また高血圧、糖尿病、慢性腎臓病があると動脈硬化を起こしやすくなります。 LDLコレステロールは一般的に140mg/dL以上を高LDLコレステロール血症としていますが、LDLコレステロールの目標値は、あわせ持っている病気によってかわります。動脈硬化の病気の危険性が高い方ほど、より下げた方がいいことがわかっています。 次に目標値を決めるための手順です。

1 狭心症や心筋梗塞といった冠動脈の病気、動脈硬化による脳梗塞の既往がある場合

LDLコレステロール 100未満が目標です。
次の状態の場合には、LDLコレステロール 70未満に下げることが推奨されます。
  1. 急性心筋梗塞後
  2. 心筋梗塞になりかけている狭心症(不安定狭心症)がある時
  3. 冠動脈の病気と糖尿病をあわせ持つ時
  4. 冠動脈の病気と動脈硬化による脳梗塞をあわせ持つ時
  5. 家族性高コレステロール血症の方

2 狭心症、心筋梗塞といった冠動脈の病気、動脈硬化による脳梗塞の既往がない場合

  • 糖尿病
  • 慢性腎臓病
  • 末梢動脈疾患
いずれかがある場合は LDLコレステロール 120未満が目標です。
糖尿病の方で 末梢動脈疾患や糖尿病の合併症(網膜症、腎症、神経障害)、そして喫煙のいずれかがある時 LDLコレステロール 100未満に下げることが推奨されます。 (末梢動脈疾患とは、足の血管に動脈硬化がおこった結果、足に十分な血液が流れなくなることで症状が 出る病気です)

3 狭心症、心筋梗塞といった冠動脈の病気、動脈硬化による脳梗塞の既往がなく、糖尿病、慢性腎臓病や末梢動脈疾患がない場合

久山町研究(福岡県久山町で60年以上行われている生活習慣病の調査)のスコアを計算して 点数をつけると10年間の動脈硬化の病気の発症リスク(危険性)がわかります。 そのリスクから目標値を設定します。 詳しい説明は省略しますが、 日本動脈硬化学会のホームページ に『動脈硬化性疾患発症予測ツール』があり、 年齢、性別、喫煙習慣、血圧、糖尿病にはなっていない糖代謝異常があるかどうか、 HDLコレステロール、LDLコレステロールを入力することで計算することができます。
予測される10年間の動脈硬化 の病気の発症リスク 分類 LDLコレステロールの目標値
2%未満 低リスク 160未満
2%〜10%未満 中リスク 140未満
10%以上 高リスク 120未満
脂質異常症の治療は、食事療法や運動療法が基本ですが、目標値に達しない場合には、お薬による治療を考えていきます。 脂質を管理することで動脈硬化の予防をしていきましょう。
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